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トークネットのコミュニケーションマガジン

仙台フィルハーモニー管弦楽団 コンサートマスター
神谷 未穂(かみや みほ)

プロフィール
神谷未穂(かみや みほ)
札幌生まれ。鎌倉育ち。6歳からヴァイオリンをはじめ、大学卒業後ドイツに音楽留学し、さらにフランスで学ぶ。パリを拠点にソロ、室内楽、オーケストラとの共演も多数。全国の学校や施設でアウトリーチ活動を意欲的に行う。2011年3月より仙台に在住し活動。2011年度宮城県芸術選奨を受賞。

仙台フィルハーモニー管弦楽団
お問合せ 仙台フィルサービス
TEL.022-225-3934
HP.http://www.sendaiphil.jp/

杜の息吹が育む音づくり
楽曲にのせて届ける音楽の力

言葉がなくとも、気持ちが繋がることがあります。
地域の人たちに音楽を届ける仙台フィルハーモニー管弦楽団もその一つです。
楽団員のまとめ役であるコンサートマスターの神谷未穂さんに、音楽に対する思いや日ごろ心がけていることなどを、営業部の鈴木さおりが伺いました。

先入観で決めつけず受け入れる余裕をもつこと。

仙台クラシックフェスティバルや仙台フィル定期演奏会、東北電力グリーンプラザでの演奏会などで、華やかなたたずまいの神谷未穂さん。演奏家として、仙台フィルハーモニーの楽団員73名のまとめ役として、神谷さんに「思いをつなぐ」ことについて伺います。

神谷さんが務めるコンサートマスターは、オーケストラの要。指揮者の指示を補って、細かな音の出だしや切る位置、微妙なニュアンスについて、必要に応じて指示を出します。

「一番気をつかうのは、指揮者がどういう音楽づくりをするのかを捉えることです。ソロのときは自分ひとりで演奏をつくり込みますが、コンサートマスターのときは100%つくり込むのではなく、20%くらい残しておきます。指揮者からどのような指示があったとしても、そうきましたか!そういうアプローチの仕方があるんですか!と受け入れられるようになりますから」

しっかりと見つめる大きな瞳、表現力豊かで、繊細さと力強さを合わせ持つ神谷さん。指揮者の意図を団員に伝えるときも、心がけていることがあるといいます。

「各自が、自分の演奏したいイメージの音楽を持って集まってきています。そこに、指揮者が意図している音づくりを、いかに早く的確に伝えられるか。スピーディさと正確さが求められるんです」

指揮者の音づくりをくみ取り、団員にいち早く伝える

プロとアマチュアの違いは、音のつくり込み方にあるようです。私も吹奏楽団で活動しているので、ぜひ聞いてみたかったのは、「プロの方々はすぐ音を合わせられるのか」ということ。

「リハーサルで、テンポ感が違うのでは?ということはしょっちゅうです。そんなときは休憩の間に、個々に話すこともあります」

仙台フィルのスタッフによれば、神谷さんは団員の平均年齢より少し若いとのこと。年上の団員の方への接し方はどうされているのでしょう。

「そうですね。言いにくいことも、意見として伝えるようにしています。そういう意味では、仙台フィルは年齢を気にせず『音楽第一』なので、すごくやりやすいですね」

仙台フィルからコンサートマスターへの就任依頼があったとき迷うことなく引き受けたのも、過去に客演コンサートマスターとして演奏したときに感じた、音づくりへの積極的な取り組みと真摯な姿勢があったから。そして仙台の街が好きだったから。仙台フィルの気質は、環境によるのではと神谷さんは考えています。

「通勤時間が短いのが影響しているんじゃないでしょうか。満員電車に長時間揺られることがないのは大きいですよ。大切な楽器を持って移動する演奏家にとって、満員電車は本当に怖くて。その心配があるとないとでは、まったくストレスが違いますから」

鎌倉で育ち、ドイツ、パリを拠点としてきた神谷さんは、現在は仙台市民。

団員とのコンタクトは、全員の顔を見てあいさつから。

フランス人のご主人(チェロとヴィオラ・ダ・ガンバ奏者)とともに仙台に暮らし、ご主人は仙台から東京に通勤しています。

「仙台に初めて演奏で訪れたのは、東京エレクトロンホール宮城でした。すぐ前に定禅寺通りがあって、ケヤキ並木の歩道が広くって。仙台は伊達の文化と言われますが、本当にセンスがいいんだと思います。主人も私も食べることが好きで、何を食べても美味しい。中でも好きなのは牛タンですね」

仙台に引っ越して来たのは、「震災直前のおひなさまの日」だった神谷さん。慣れない生活の中で苦労はあったのではと思いますが、出てくるのは仙台市民で良かったという言葉でした。

「たいへんなところに引っ越したねと言う人もいたけれど、仙台フィルのメンバーと同じ気持ちで活動していけるから仙台市民になっていて本当に良かったと思っています」

メンバーとの思いを繋ぐことを早めたのは、経験したことのない、たいへんな出来事を乗り越えたからかもしれません。それでも外部から来たこと、若手であること。実力だけでは解決できないこともあったのではと想像します。

「オーケストラにはそれぞれ色があって、仙台フィル独特の音楽があります。何十年も仙台フィルで演奏している団員の中に加わる、私は新人ですから。初めは違う空気が流れて、早く年数を重ねたいと思ったことも。でも最近、背中で感じるんです。合ってきたなあって」

「気」を合わせ瞬時に反応できるようあらゆる勘を働かせる。

神谷さんが就任当初からメンバーと繋がるために行ってきたのが、全員の顔を見ながらあいさつすること。

「ほかのオーケストラではあまりないらしいのですが、リハーサルはあいさつから開始します。大きな声で『おはようございます』と全員の顔を見るんです。そこで元気がないと、あれっ体調が悪いのかなと」

そんなときは、休憩時間にそれとなく声がけします。時には「イェーイ!」と空気を和ませに行くことも。というのも、体調の良し悪しが最も演奏を左右するものだからです。

「“気„をすごく大切にしていて、団員の“気„が合わなければ統一感のない音楽になってしまいます。呼吸の仕方一つとっても合わせることが重要で、そこまでいろいろな勘を働かせていないと大作曲家の演奏はできないのです。その勘に、なにより影響するのが自然からのインスピレーション。自然が身近な仙台にいて、自分の音感がどう変わっていくのかも興味があります」

音を合わせるのではなく、“気„を合わせること。一つの音楽を通して思いを伝えるには、芯が繋がっていないとできないのかもしれません。これまでの経験で思いが繋がったと感じたのは、避難所での演奏でした。

「音楽を通して祈ることしかできませんでした。『こんなときに』という冷ややかな空気が次第にやわらいで、みなさんが涙し、最後は拍手をされ、ありがとうと言われたことが一番印象に残っています」

その後、仙台フィルは「音楽の力による復興センター」と協力して“つながれ心 つながれ力”を合言葉に避難所や学校で演奏。クラシック音楽の楽しさ、素晴らしさを伝える活動が評価され、神谷さんは2011年度の宮城県芸術選奨を受賞されました。

「ホールでの演奏だけかと思った、とよく言われるんですよ。オーケストラがまるごと学校の体育館などに出向いて演奏するのはもちろん、企業や地域に依頼されて実施するコンサートもあります。木管アンサンブルや弦楽四重奏など少人数での活動もしていて、クラシックのおもしろさを伝えるアウトリーチ活動も積極的に行っています。そこでは楽器に触れ、言葉を超えた繋がりがあるんです」

アウトリーチとは、地域や施設に出向いて行うワークショップやミニコンサートのこと。今年6月の定期演奏会のアンコールでは「かぶりもの姿」で演奏し、こんな楽しませ方もと驚かされました。

「たぶん、音楽と人が好きなメンバーの集まりだからでしょう。それがなければ、お客さまが感動する音楽を奏でることはできません。この曲すばらしいよね!と一緒に盛り上がり、弾き終えた熱気そのままロビーに出て、お客さまとの交流を楽しみにする人ばかりですから」

演奏会でのあたたかさも、その空気が醸し出されているからかもしれません。活動は宮城県内にとどまらず、2013年には「特別演奏会『名曲コレクション』ニューイヤーコンサート」が福島(1月13日)、盛岡(1月14日)で開催されます。美しいメロディが染み渡るドヴォルザークで新春を迎えられてはいかがでしょう。

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