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トークネットのコミュニケーションマガジン

白瀑しらたき醸造元 山本合名会社 代表
山本 友文(やまもと ともふみ)

プロフィール
秋田県八峰町にある山本合名会社「白瀑」六代目。アメリカの大学を卒業後、音楽プロダクションのマネージメントに従事。2002年後継者として帰郷、2007年六代目に。2010年4月に新政酒造、秋田醸造、栗林酒造店、福禄寿酒造の若手経営者とともに酒造りユニット「NEXT5」を立ち上げる。

山本合名会社
秋田県八峰町八森字八森269
TEL.0185-77-2311
HP.http://www.shirataki.net/

若き蔵元たちの新しい風
酒どころ秋田の未来を担う

日本酒の消費量と酒蔵が減り続けている中、秋田の酒を元気にしたいと立ち上がったのが県内の若手蔵元5人からなる「NEXT5(ネクスト ファイブ)」。
新たな酒造りへの思いについて、秋田支社の佐藤亮太が伺いました。

広島の蔵元が刺激に

「2010年2月末頃、雑誌の記事で広島県の蔵元集団『魂志会(こんしかい)』の取り組みを見たのがきっかけです。6つの蔵元がお互いの酒を批評し合い、ともに品質向上を目指そうと頑張っている姿に刺激を受けました」

山本さんの呼び掛けのもと、2カ月後の4月にNEXT5は発足。酒どころ秋田の復権と日本酒の新たな価値をつくろうと立ち上がりました。メンバーは、30代から40代の若き蔵元経営者たち。蔵元自身が杜氏あるいは技術者として酒造りを行っているのが特徴です。一般的に秋田の酒造りは、「杜氏」と呼ばれる最高責任者が「蔵人」を率いて、農閑期に酒蔵にやってきて酒造りを行います。つまり蔵元である経営者が直接酒造りに携わる機会は少ないのです。

「飲み手の嗜好が多様化している今、造り手の自分たち自身も納得いくものを造りたい。そのためにも蔵元が積極的に酒造りに参加すべきだと思いました」

危機に直面、一念発起

山本さんが後継者として戻ってきたのは11年前のこと。本来は跡継ぎではなかったのですが、身内の不幸が重なり必然的に後継者となったそうです。

「蔵元は後継者がいないと成り立たないので帰ってきたんですが、会社は大赤字でした。それまで全然違う仕事をしていたので酒造りについて教えてもらおうと杜氏さんに聞いても、警戒されて何も答えてくれない。販売先では『こんなの売れないよ』と言われる日々でした。初めの5年間は給料もなく、貯金を切り崩してなんとかやってたけど、精神的にかなり追いつめられていきました」

このままでは倒産する。危機的状況に立たされた山本さんは、イチかバチかの大勝負に出ました。明治34年(1901)の創業以来続いていた杜氏制を廃止し、自らが製造の総責任者となって酒造りを行うことに。日本酒には米、米麹、水だけで造る「純米酒」のほか、蒸留したアルコールを添加した「本醸造酒」や「普通酒」などがあります。山本さんは普通酒を仕込まず、純米酒を中心に造ることにしました。また「酒造りは米作りから」と、自社の仕込水が100%流れ込む棚田で酒米「秋田酒こまち」を6年前から栽培。この仕込水は、白神山地に連なる山に湧き出る天然水。仕込水で酒米を栽培し商品化している酒造メーカーは全国的にも例がないと言います。

それぞれの情熱が集結

NEXT5のメンバーはそれぞれに事情を抱えながら、「おいしい日本酒を造りたい」という1つの目標に向かって突き進んでいます。

少量でもいいから自分で納得できるお酒を造りたいと、秋田県内で最初に杜氏制を廃止。自ら杜氏となった〝NEXT5の指導者〟こと「ゆきの美人」(秋田市・秋田醸造)三代目小林忠彦さん。最先端の酒造技術を駆使し、雪解け水のごとき美麗な新世代日本酒を生み出しています。

〝NEXT5のビックリ箱〟こと「新政」(秋田市・新政酒造)の八代目佐藤祐輔さんも、杜氏制を廃止し社員制を導入。秋田県内の酒蔵としては異例の若いスタッフたちが、最古の酵母「きょうかい六号」発祥蔵としての伝統を受け継ぎながら、バラエティに富んだアイテムを発信。日本酒業界を盛り上げています。

杜氏が急死し、自ら酒造りを行うことを余儀なくされたのは〝NEXT5の良心〟こと「春霞」(美郷町・栗林酒造店)七代目栗林直章さん。名水百選にも選ばれた「六郷の地下水」と酒米「美郷錦」で、味わい深い本格的な日本酒を醸しています。

若手の杜氏と二人三脚で酒造りを行っているのは〝NEXT5の最終兵器〟こと福禄寿酒造(五城目町)十六代目渡邉康衛さん。知る人ぞ知る幻の銘柄「一白水成」は、全国の地酒ファンに絶大な人気を誇っています。

「最終兵器や良心というキャッチフレーズは新政の祐輔くんがつけてくれました。彼は東大出身の元ライター。ちなみに私は〝切り込み隊長〟です。それぞれの性格を的確に表しているんです。とにかくみんな酒造りに対する情熱は人一倍強い。そんな僕らの思いを楽しんで協力してくれる先輩方や酒屋さんがいてくれるので、やりがいがあります」

秋田の次世代のために

秘伝の酒造りの技術を互いに公開。月に1度集まって利き酒をしたり県外の蔵元を訪れるなど技術交流を図っています。

「NEXT5を立ち上げてから、みんな品質も良くなって売上も伸び、品薄状態になるほど。毎年春と秋には消費者イベントを行っていますが、飲み手の声を直接聞くことができ、商品作りに生かすことができました。1つの蔵だけではできなかったことだと思います」

酒造りの主要工程をリレー式に分担して醸造する「共同醸造酒プロジェクト」では、5人が自由な発想で生み出した日本酒を毎回3000本販売。予約だけで完売になってしまうほどの人気で、パッケージやロゴは秋田の若手デザイナーが手掛けています。今年は山本さんの蔵元で醸造され、クリスマスイブに発売される予定です。

「あえてクリスマスイブにしているのは、シャンパンやワインもいいけど日本酒も合うよと言いたいから。今、若い人たちが日本酒を飲まなくなってきている。逆に言えば日本酒に対する先入観を持っていない人たち。そうした日本酒ビギナーやライトユーザーに響くものを造りたいと頑張っています」  フレッシュでフルーティーな味わいの「新世代の日本酒」は今年で一巡。最後にこれからの目標について伺いました。

「8月にはメンバーでフランスに行き、世界のトップワイナリーを巡ってきました。技術的なことやブランディング、地域とのかかわりについて学び、こうした経験を商品作りに生かしたいと思っています。また、今はこの5人でやってますが、どこかの蔵元に後継者が戻ってきて試行錯誤しながら酒造りを追求する人が出てきたら、年上の人から順番に抜けていくという約束事を結成時に作ったんです。それは、どの時代でもNEXT5が秋田の次世代を見据えた技術交流の場でありたいという思いからです」

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vol.04 2013
(PDF 8.4MB)

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