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トークネットのコミュニケーションマガジン

会津東山温泉 向瀧 代表取締役
平田 裕一 氏(ひらた ゆういち)

プロフィール
東京で旅行会社勤務後、1991年に家業の向瀧入社。番頭、営業部長、専務を務め2002年に6代目社長に就任。インターネットが普及する以前から、いち早く向瀧オリジナルのホームページを開設し、旅行代理店を通さないIT活用による直接集客に取り組む。そのほか、顧客満足度の向上のための、さまざまな経営改革により、経済産業省おもてなし企業選先進的モデル企業認定。

株式会社 向瀧
福島県会津若松市東山町大字湯本字川向200
TEL.0242-27-7501
HP.http://www.mukaitaki.com

親から子へ、子から孫へ
お客さまの思い出を磨き続ける

江戸時代、会津藩の湯治場として栄えた東山温泉。藩士を癒やした湯は、
明治維新後「会津東山温泉 向瀧(むかいたき)」として約140年にわたり、
訪れる客人をもてなしてきました。平田裕一さんは、その老舗旅館の6代目。
伝統に胡座(あぐら)をかかない独自の旅館経営で改善を続ける平田社長に、
代々続く家業への思いと、お客さまを満足させるおもてなしについて伺いました。

インターネットでの予約にいち早く着目

今から約20年前、インターネットが一般的にはまだ普及していなかった頃に、「向瀧」は旅行会社との契約を止め、自社ホームページでの情報発信と宿泊予約に転換しました。

「旅行会社に頼っていては、お客さまと良い関係を作れないと思いました。旅行会社に客室を押さえられて、空いているのに直接予約に対応できない状況をなくし、お客さまを優先したかったのです。ホームページは独学で制作して、旅館を紹介する文章から、客室や料理の撮影、また、内容の更新などもすべて一人で行っていました」

そう話す平田裕一社長が作った「向瀧」のホームページには、間取りの違う24の客室の特徴を分かりやすく紹介。予約システムは、自動返信ですぐに確定するのではなく、お客さまからのメールを確認し、希望の内容に合った部屋を探す方法が取られています。

「この方が細かいご要望にお応えすることができます。季節ごとに、お好みの部屋をご指定されるリピーターのお客さまもいらっしゃいます」

現在「向瀧」は約9割が自社集客で、予約は伸び続けています。同時に、インターネットを介した口コミの評判も良く、世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の『エクセレンス認証』を2015年と2016年に連続受賞しました。

すべてはお客さまに満足してもらうため

平田社長は東京の大学を卒業後、大手旅行会社に勤務。旅行商品の企画やカウンター業務、国内外の添乗業務などに携わっていました。

「お客さまをよく観察して、会話の中から、泊まりたい旅館のイメージを考えながら提案するようにしました。クレーム対応も含め、現場でないと気づけないことを会社員時代に学べたと思います。今思えば、学生時代のバンド活動も役立っているかも知れません。作詞や作曲、プロモーションやチケット販売などを経験し、どう表現したら評判になるのか、喜んでもらえるのかを常に考えていましたから」

フィールドは違えど、平田社長の行動の源は“お客さまに 満足してもらうため”。そして 1991年、自身の原点である会津に戻った平田社長は、お客さま目線のサービスを提供する旅館を目指し、さまざまな改革を実行に移していきます。

「故郷の自然のすばらしさを実感しました。同時に、昭和初期と同じ感覚のままで、旅館の経営を行っていたことに驚きました。そして、老舗の看板に胡座をかいていてはこの先危ないと思ったんです」

平田社長が入社した頃、社員の平均年齢は57歳。荷物運びや配膳のような力仕事は辛く、その姿はお客さまに気を遣わせることにもなるかも知れない。

「市内の高校を回り、新卒採用を開始しました。若い人が少ないうちはベテランさんの勢いに押されていましたが、若い社員を積極的に採用し、数の割合が6対4くらいになるとベテランさんは自ら辞めていきました。もちろん、従来の働き方を変えて定年まで勤めてくれた人もいます」  
現在の平均年齢は27歳。平田社長は、痛みを承知でさらなる改革を推し進め、旅館の中の“聖域”にメスを入れました。

「調理場を改革して料理を変えたかったんです。当時は、マグロと甘エビの刺身や魚の焼き物など、海の食材が多く使われていました。でも、ここは会津ですから、海の幸より山の幸、川魚をおいしく味わっていただく調理を工夫すべきなんです。添乗員として数々の旅館に宿泊してきた経験上、お客さまが求めているのは、その土地の旬の美味しいものだと確信していました」

しかし、やり方を変えられないベテランの板前たちは辞めていきました。

「辞めなかった社員たちと一緒に、お客さま目線の献立を考えるチャンスだと思いました」

この時、平田社長も調理場に入り包丁を握ったそうです。こうした痛みを伴う改革の上に今の「向瀧」はあり、社長と社員が一緒に課題を乗り越えてきました。

お客さまの思い出と ともにある「向瀧」

「良い職場環境を維持するため年に2回、社員と女将との1対1の面談も実施しています。仕事のことや人間関係など、悩みや意見を聞いて、働きやすい環境を作るようにしています」と平田社長。

「向瀧」では、時間があると常に誰かが掃除をし、庭の手入れをしています。社長が自ら率先して行動することで、社員たちが自然と動くようになったそうです。

「例えば、冬に雪が降ると建物は障子が開きにくくなります。自分たちが毎日触れて掃除をすることで気づきます。私たちは、感じ取る力を建物から学んでいるのです。お客さまの場合は気持ちが表情や行動に出るので、もっと分かりやすい。望んでいることを先回りしてサービスを提供することが大切なんです」

「向瀧」では、社員が宿泊客になって旅館で過ごす“お泊まり会”があります。実際に体験することで、今まで気がつかなかったことに気づき、改善していくことで、充実したおもてなしにつなげています。

「代々続いてきた旅館は、お客さまの家系と私どもの家系が縦でつながっているんですね。だから親、子、孫とそれぞれの世代の、向瀧での思い出が劣化しないように、建物を磨き続けているんです」

時代に応じて新しくすべきところを変え、守るべき価値は残すことで、「向瀧」は良き思い出の場所としてあり続けます。

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vol.16 2016
(PDF 12.6MB)

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