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トークネットのコミュニケーションマガジン

株式会社わらび座 代表取締役社長
山川 龍巳 氏(やまかわ たつみ)

[ プロフィール ]
1951年長崎県生まれ。19歳の時、劇団わらび座に入団。役者を経験した後、わらび劇場経営監督、たざわこ芸術村営業部長などを経て、2006年から2014年まで「坊っちゃん劇場」支配人として愛媛県に赴任。2016年(株)わらび座代表取締役社長に就任。

株式会社わらび座
秋田県仙北市田沢湖卒田字早稲田430
TEL.0187-44-3311
http://www.warabi.gr.jp

ひとの心を豊かにする
演劇の魅力を活かしたヒューマンビジネス

1953年から、秋田県を拠点に歌と踊りによる演劇活動が中心の複合文化事業を展開する「株式会社わらび座」。
代表取締役社長の山川龍巳さんが次に目指すのは、演劇コンテンツをひとづくりのヒューマンビジネス産業に成長させること。
そのビジョンの構想と演劇への思いについて伺いました。

地域に根付いた劇団「わらび座」の誕生

「わらび座は、1951年に『楽団つばめ』として東京で誕生しました。創設者の原太郎はもともと作曲家で、終戦から懸命に働いてきた人たちを音楽で楽しませたいと、仲間2人と立ち上げました」

そう話す社長の山川龍巳さん。山川さんは偶然にもわらび座が創立した年に誕生しました。

「その後、仲間の1人が秋田県出身ということで拠点を秋田に移し、音楽と劇団の活動を始めました。その頃メンバーは9名に増えていましたが、突然大人数で押しかけたにも関わらず、地元の方々に受け入れてもらえたのですから、大変な情熱だっと思います。当初は、田植えや稲刈りを一生懸命手伝います、と言って入ったそうです」

秋田移転を機に、劇団名を「わらび座」に改称。山菜のわらびは、かつて東北の飢えに苦しむ農民を救ったと言われています。根っこの強いわらびのように、劇団は地域に根付き地元の人たちに活力を与えてきました。

「原はよく『これからはアクセサリーのような文化ではなく、生活必需品の歌と踊りを追及していかなくてはならない』と言っていました」と山川さん。わらび座は、創設者の思いを受け継ぎ、その土地にまつわる人のエピソードを題材とした、民話劇や歌舞劇を上演してきました。

「あきた芸術村」の魅力とは

劇団は1974年、常設型の「わらび劇場」を開館しました。その後、宿泊施設や温泉施設を開設し、中高生の体験旅行の受入れを行うほか、地ビールの醸造・販売を手掛けるなど、多角的な経営に乗り出しました。

「今、わらび座は240名のアートカンパニーです。『あきた芸術村』として、いわゆる文化複合事業を展開していくことで、地元の人たちの雇用を生み出します。そして何より、一番大事な劇団の仕事を支えることができるのです」

わらび座が長年続けていることとして、郷土芸能や農業体験をメニューに取り入れた修学旅行があります。

「40年前から体験に参加している学校が東京にあるんです。当時15歳の子が親になり、今はその子ども世代が参加しています。昨年、1期生たちが訪ねてきたんですが、みんな『ただいま』と懐かしんでました。子どもたちは、農家の暮らしを学ぶために来るわけではなく、農家の人たちの優しさ、温かさに触れたくて会いに来るんです」と山川さん。

「農家の人たちが、どんな思いで田畑を拓き育ててきたのかを語って聞かせると、子どもたちは真剣に耳を傾けます。農家の人たちも子どもたちに語って聞かせるのが嬉しいのです」

体験旅行のカリキュラムには演劇の訓練もあります。「演劇とは、観るのはもちろんですが、相手の言葉をよく聞くことが大事なんです。訓練を通してそのことを発見し、想像する力、発想する力、共感する心を学ぶことでコミュニケーション力を養うことができます」と山川さん。

教育・医療・観光に演劇を活かす

この「教育」は、わらび座が目指すビジネスの一つの柱となっています。

「演劇にはひとを育てる力があると思っています。その柱となるのが、教育と医療、観光です。この3つを柱に、演劇コンテンツをヒューマンビジネス産業に成長させていきたい」

2本目の柱の「医療」については、認知症予防や心のケアに演劇コンテンツを活用するというものです。「演劇を活用した治療は、実際に仙台の病院で始めています。医師によると、認知症には情動を刺激し、楽しいとか居心地が良いとか、感情を奮い立たせることが大事だということです。もっと演劇が活用されるような展開ができればと考えています」

3つ目の柱の「観光」は、拡大するインバウンドに目を向けたもの。「優れた文化は観光資源になります。秋田の竿灯や民俗芸能の多くは米作りの文化がベースです。その米作りを背景に伝承されてきた文化を、わらび座が物語性と娯楽性のエッセンスを加え、発信していきます」

観る人の心に響く舞台を届ける

わらび座が大切にしているのは、その土地の歴史の中で生きる人々の人生を、演劇で表現することです。近作でいえば、仙台の電力ホールで上演された、慶長遣欧使節団の一員として海を渡った一人の若者が主人公の「ジパング青春記」。慶長の大地震に負けずに夢を掴んだ若者を通して、東北人の強さを伝える作品です。また、あきた芸術村の小劇場では、斬新なアイディアで故郷の村を救ってきた、坂本東嶽夫婦を描いた「びっくり理一郎」を上演。地元の小学校も課外授業で観劇に訪れました。わらび座には、東北以外の地域からも舞台製作の依頼があり、今後、広島や北海道にまつわる舞台も発表される予定です。

「私は大阪に本社のあるゼネコンに就職し、広島でわらび座に出会いました。就職して1年目で、とても人生に悩んでいた時期でした。そんな時、広島に公演に来ていたわらび座の舞台を初めて観たんです。民俗芸能の作品で、なぜか涙が止まらなくて。その足で宿までついて行き、入団したいと話しました。舞台がどうとかでなく、この人たちと一緒に生きていきたいと思ったのです」

山川さんは身をもって体験した演劇の持つ力について、こう語ります。「道に迷ったり、どう生きれば良いのか考えている子どもたちが、演劇を観ることで救われたら良いなと思います。それは、地域を元気づけることにつながると考えています。そんなわらび座であり続けたいですね」

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vol.22 2018
(PDF 9.8MB)

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