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トークネットのコミュニケーションマガジン

会津大学 教授 宇宙情報科学研究センター センター長
出村 裕英氏(でむら ひろひで)

[ プロフィール ]
1970年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科修了、博士(理学)。旧宇宙開発事業団宇宙開発特別研究員を経て、2002年に会津大学へ赴任。2015年、科学技術分野の文部科学大臣表彰(科学技術賞)「サイエンスカフェおよび講演を通した深宇宙探査の理解増進」をグループ筆頭で受賞。

会津から宇宙に迫る!
会津大学の研究が宇宙開発に貢献

今年12月、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が2014年に打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰還します。
10年前の「はやぶさ」に続き、プロジェクトに大きく貢献している会津大学の教員や大学院生の方々。
宇宙開発や深宇宙探査への想いについて、同大宇宙情報科学研究センター(ARC-Space)センター長の出村裕英教授に伺いました。

国内有数の宇宙開発の研究拠点

会津大学は1993年、国際的な教授陣を擁して開学。コンピュータ理工学に特化し走り続けてきた同大が、宇宙開発の分野で知られるようになったのは、小惑星探査機「はやぶさ」(2003~2010年)と、月周回衛星「かぐや」(2007~2009年)での貢献でした。「はやぶさ」は人類初の地球圏外天体への往復飛行のミッションを達成。「かぐや」は米国アポロ計画の科学成果を更新した大型月探査のミッションを達成しました。

「私の着任前の会津大学で、米国月探査ミッションのデータ解析やJAXAの衛星データプロトコル(SDTP)開発といった実績はありましたが、それらは個人戦の成果でした。やはり大きなステップとなったのは『はやぶさ』です。教員と学生の混合チームが小惑星イトカワの3次元形 状モデリングで活躍し、会津大学から初めて『Science』 (アメリカ科学振興協会が発行 する学術情報誌)で筆頭著者論文を発表することができました」と出村裕英教授。

このような経緯から、会津大学は2009年に発足した先端情報科学研究センター内に宇宙情報科学クラスターが設置され、出村准教授(当時)はそのクラスター長に就きました。以後、国内有数の宇宙開発の研究拠点として活躍することになりました。

今年12月に帰還する「はやぶさ2」は、生命や海の材料となった有機物や水を探索し、地球の起源を探ることが目的です。このプロジェクトでも会津大学は、観測機器の開発や小惑星形状のモデリングを行う解析ソフトウェアの開発に取り組んでいます。

最新のICT技術でミッションに参画

会津大学では、ほかにも国際宇宙ステーション「たんぽぽ計画」や、2024年の「火星衛星探査計画MMX」など、大小関わらずさまざまな宇宙開発のプロジェクトのミッションに参画しています。こうした活動が評価されて、2019年には文部科学省の大学共同利用機関「月惑星アーカイブサイエンス拠点」に認定され、宇宙情報科学研究センターが発足しました。太陽系天体の起源と進化の解明を目指す月惑星科学への寄与だけでなく、ICTに特化した会津大学の強みを生かして宇宙科学と情報科学の両コミュニティを架橋し、新たな価値を付加したデータやソフトウエアを開発提供します。

「月惑星アーカイブサイエンスというのは、国内外で取得蓄積公開された月惑星探査機のアーカイブデータに最新のICT技術を導入してソフトウエアとデータを一体で開発整備する基礎研究を指します。宇宙科学(惑星科学)と情報科学を融合した宇宙情報科学分野の研究を産学官連携により促進させ、その成果を学術コミュニティに提供することで、両分野の研究の活性化と技術開発の進展に寄与し、最終的に太陽系天体の起源と進化の解明にも寄与することを目的としています」と出村教授。

大学共同利用機関・共同研究拠点は、拠点のリソースと国の資金で公募型の共同研究事業を行う日本独自の制度です。

「アーカイブサイエンスという軸で、惑星科学と情報科学の両コミュニティの架け橋として、国内外の研究者とJAXAやICT企業の連携を実現していきます」と話します。

東北や福島県の企業が、宇宙開発のプロジェクトに携わることも多く、「はやぶさ」「はやぶさ2」でも、内蔵電池・通信機器、衝突装置の部品開発など、重要な役割を果たしています。

宇宙への興味を社会還元につなげて

出村教授が宇宙に興味を持ったのは、小学生の時にテレビの特番で米国の無人惑星探査機ボイジャーによって撮影された画像を見たことがきっかけでした。

「地球外にこんな別世界があるのかと驚き、また、その場に探査機を送り込んで手を伸ばすように調べるという研究手段にも魅了され、比較惑星学や宇宙探査理工学に興味を持ち、現在に至ります」と出村教授。

会津大学に赴任する前、旧宇宙開発事業団の宇宙開発特別研究員だった出村教授は、任期を1年残したタイミングで、複数の大学や研究所のポストに応募しました。

「当時、教育職ポストは少なく激戦だったのですが、会津大学からは抜群に早い段階で採用連絡がありました。早い採否連絡は採用側の誠意の現れであるということで決めました。最初に連絡いただいたところに赴任し、選考途中のものを辞退して他者が応募できるよう配慮することで、研究分野全体の生き残りを図る雰囲気が当時はあったんです。偶然の要素が大きかったですね」と振り返ります。

会津大学は、県内の中高生や全国の高校への出前講義など、次世代層が宇宙に興味を持つきっかけづくりにも取組んでいます。その活動が評価されて、2015年には文科省科学技術賞を受賞しました。

「実は、私たちは、GPSや衛星測位の技術を使って、すでに宇宙の技術を活用しています。現在、水を売っている会社がたくさんありますが、国際宇宙ステーションの中で行われた浄水技術の転用なのです。だから宇宙というフロンティアに向かっていろいろな研究開発をするということが、我々人類社会の利便性や豊かさにつながってくると思っています。

今後は、『福島ロボットテストフィールド』を舞台とした月面開発を見据えた基礎研究や、実証研究が進む見込みです。福島で作られたロボットが月面で稼働するような未来につながれば嬉しいです」と熱く語ります。

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vol.32 2020
(PDF 12.1MB)

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