ホーム > JoinT > vol.33

JoinT
トークネットのコミュニケーションマガジン

赤武酒造株式会社 専務 杜氏
古舘 龍之介氏(ふるだて りゅうのすけ)

[ プロフィール ]
2014年、東京農業大学醸造科学科卒業。
在学中は全国きき酒選手権大会「大学対抗の部」で優勝。卒業後、赤武酒造の杜氏となり、新ブランド「AKABU」を立ち上げる。
2015年、酒造年度の全国新酒鑑評会で金賞を受賞。

「浜娘」から「AKABU」へ
若い世代のチャレンジが活きる復活蔵

岩手県大槌町で100年以上にわたり酒造りを続けてきた「赤武酒造」。
東日本大震災の津波で蔵が流される被害を受けましたが、
2013年秋、盛岡市内に新たな蔵を再建。「復活蔵」と名付けられた新工場では、
若い蔵人たちが酒造りに励んでいます。
6代目の古舘龍之介さんに新生赤武が目指す酒造りについて伺いました。

新天地で造った酒を地道に売り込み

蔵元の家に生まれ、父である5代目と祖父の働く姿を見て育った龍之介さん。

「高校生の頃から、漠然といつかは継ぐのだろうなと思っていました。大学時代に東日本大震災で被災し、父からは酒造りを辞めることを聞いていたので、東京で就職活動をしていました」

その後、蔵元だった父親が酒蔵再建を決断し、赤武酒造は盛岡市郊外に蔵を建てることになりました。龍之介さんは卒業後、家業を継ぐために、地元に戻りましたが、その当時は酒造りをする人がいなかったと振り返ります。

「赤武酒造はこれまで、南部杜氏さんを呼んで酒造りを行ってきましたが、父は社員による酒造りを模索しており、震災前はその過渡期でした。震災直後は蔵も人もない状況からスタートしました。復活蔵を建て、私は戻りましたが、社員は酒造り未経験の若者たち。父も基礎はありますが、経営の方の仕事があるため、必然的に私が杜氏として酒造りを任される形になりました」

龍之介さんは、学生時代に修行先で醸造の経験があり、「全国きき酒選手権大会」で学生チャンピオンに輝いた経歴の持ち主です。赤武酒造の代表銘柄といえば『浜娘』。今までと、異なるインパクトのある酒を目指して誕生したのが『AKABU』でした。新銘柄のコンセプトは、料理と会話がすすみ、楽しく飲める酒。

「『浜娘』は祖父の代に造られた銘柄ですが、震災のイメージが強く、ちょっと悲しい酒になってしまいました。どうにかしてそのイメージを払拭させたくて、ラベルにもこだわりました。しかし、1~2年はなかなか売れませんでした。盛岡は伝統ある酒蔵が多く、なかなか海沿いの“田舎酒”は受け入れられないようです。それなら東京で試してみようとなり、有名店を中心に飛び込み営業を行いました。父と1軒1軒酒店さんを回り、広報活動をさせていただきました。品質は大前提にあって、さらに付加価値をつけてくれる酒屋さん、置いてあるだけでブランド力が高くなるような酒屋さんがあります。そんなお店に並べてもらうにはどうしたら良いのか考えました。学生時代、きき酒選手権に出場し、日本酒を飲み歩いた東京での経験が役に立ったのか、徐々に手応えを感じるようになりました。おもしろいもので東京で売れ始めると、盛岡でもお声掛けいただくようになって…」

経験の差に関係なくみんなで酒造り

『AKABU』シリーズは、赤い武士をデザインしたラベルが印象的です。

「ラベルの絵は社員が描いています。何種類かあり、Tシャツやジャンパーなどにもデザイン展開しています。日本酒のラベルには、漢字表記で読み方がわからないものも多いですが、ある程度イメージで覚えていただきたいという思いがあったんです。最近では“赤い兜の酒”で覚えていただいていて、飲食店さんでも販売店さんでもある程度通じるようになったのかなと思います」

現在、赤武酒造の社員は10名。平均年齢は30代前半で、龍之介さんはじめ20代が4名という若い集団です。女性社員も酒造りして活躍しています。

「昔は、酒蔵というと女性の方は入りにくい場所でしたが、今はあまり関係ないですね。赤武酒造では、しっかりしてやる気のある元気な方を採用しています。うちの蔵はコンパクトで、ある程度無駄のない構造になっていて、未経験者でもスムーズに動ける環境づくりにこだわっています。実は、戻った当初は、自分一人で酒造りをしていたようなものでした。みんなは、まだ何も分らないし、自分でやらないとダメなんだと。ほぼ休みなしでずっと酒造りをしていました。でもある時、酒造りは1人ではできない、みんなで一つひとつ学んでいくことで良いものができることに気づきました。うちの蔵は週休2日で残業なしです。1人ひとりが万全な体調で、効率良く仕事ができることを心掛けています」

復活蔵が目指すのは楽しく飲める日本酒

龍之介さんが意識して行っているのは、トレンドやニーズにマッチした酒造り。

「ここ10年くらいで日本酒の品質が一気に上がって、今が日本酒の黄金時代と言われている時です。フルーティーですっきりした味が多いです。日本酒造りが若い世代にバトンタッチされてきたのがここ10年なんです。そこで一気に味やターゲットが変わってきました。技術や伝統を大事にしながらも、若い世代が入って、どんどんチャレンジすることで進化して、日本酒はさらにおいしくなっています。若者の日本酒離れと言われた時もありましたが、『AKABU』に関しては、さらに若い世代に飲んでいただきたいと思います。最初に立ち上げた時は私も大学を卒業したばかりの22歳でした。同じ世代の初めて日本酒を飲む人に、日本酒っておいしいんだねと、言っていただける一本にしたいと思って造っています。若い方にも、中高年の方にも飲んでおいしい、ちょっと甘みもあって、香りも良いという日本酒を造っていきたいです」

盛岡の復活蔵を支えたのは、若き杜氏と酒造り未経験の若者たち。若い世代が“楽しく飲める”1本のため、伝統を受け継いだ新しい酒蔵は常に進化し続けます。

くわしくはこちらを
ご覧ください

JoinT
vol.33 2020
(PDF 11.4MB)

広報誌『JoinT』のバックナンバー一覧に戻る

© TOHKnet Co., Inc.

お問合せ

トークネット光

pagetop