ホーム > JoinT > vol.37

JoinT
トークネットのコミュニケーションマガジン

定義如来(浄土宗 極楽山 西方寺)住職
大江田 紘義氏(おおえだ こうぎ)

[ プロフィール ]
仙台市生まれ。大学卒業後、ホノルルにあるハワイ浄土宗別院に6年勤務。その後自坊に戻り副住職、2014年より西方寺住職。ホームページでは大江田さんの「気づき」をコラムで紹介している。

仙台の自然豊かな山の中に鎮座し800年
人々の祈りによりそい続ける「定義さん」

平家ゆかりの阿弥陀如来を祀る極楽山西方寺。
「ご縁」と「心の安らぎ」を掲げる庶民信仰の寺として、
地域の人々に親しまれています。
現住職の大江田紘義さんに、人々の心によりそうお寺のあり方や、
不安の多い時代における心のありようについて伺いました。

平貞能公に由来する庶民のための「定義さん」

浄土宗極楽山西方寺は、地元の人々から親しみを込めて「定義さん」と呼ばれています。住職の大江田紘義さんが、「定義さん」の成り立ちについて語ってくれました。

「西方寺が『定義さん』と呼ばれるようになったのは、寺社参りが盛んになった江戸時代末期頃からです。そもそも定義の名は、今から約800年前、平清盛公の嫡男・平重盛公の部下にあたる平貞能(たいらの さだよし)という人物に由来します。本尊である如来様の掛け軸は、平重盛公の平和祈願により、中国から送献されてきたものと言われています。壇ノ浦の戦いで平家が滅亡し、落人となった貞能公は、人里離れたこの地へと隠れ住み、如来様を大切にお守りになりました。世をはばかるため、名前を『貞能』から『定義』と改めたことが、定義と呼ぶ由縁となりました」

さまざまな大願を結び観光地としても人気

時代を超えて庶民の信仰対象であり続けた「定義さん」には、多くの逸話が残っています。

「名取市閖上地区のとある漁師さんが網を流されて困っていた時、集落の長老に『定義さんに行きなさい』と言われ、西方寺で願掛けをしたら豊漁になったという昔話がありますが、それ以来、大漁祈願のお参りがとても増えました。ほかにも、『10年間定義さんに参り続けて子宝を授かった』『父が戦争に行く前に定義さんに参って無事に帰ってきた』といった話もあり、信仰の力は私たちの想像を超える奇跡を起こしてくれることを実感します。 『信じる気持ち』はとても重要です。気持ちが良い方へ向くと、良いご縁も巡ってきますからね」

「定義さん」の周辺には貞能公の部下たちの末裔が集落を作り、自然と門前町が栄えました。今では県外からも多くの人が訪れる、人気の観光スポットになっています。名物の「三角油揚げ」は、周辺の旅館が精進料理として卸していた油揚げが評判になり広まったそうです。

信仰の本質に触れたホノルルでの駐在経験

大江田さんは、仙台市に生まれ育ち、大学卒業後はホノルルの浄土宗別院に6年間駐在。

「私は英語が好きで、もともとアメリカに興味があったんです。住職になるための大学に通っていた学生時代、ちょうど、ホノルルで日系の方が営んでいる寺が和尚さんを募集していたので、手をあげました」

ホノルルでは日本との文化の違いも多く、さまざまなことを学んだ大江田さん。日本では当たり前になっていることも現地では素朴な疑問として投げかけられたといいます。

「ハワイでは、仏教はマイナーな宗教です。『お焼香は何のためにするのか』と聞かれたことがあり、これまで形式的に行っていたこと一つひとつの、本質的な部分を見つめるきっかけになりました」

宗教者としての役割も、日本とはまったく違っていました。

「最も驚いたのが、ハワイでは、ターミナルケア(終末期医療)を宗教者が担っていて、終末期の看者(かんじゃ)さんに立ち会うことです。日本では私たちがお葬式の際に伺って拝むというのが普通です。病院に袈裟姿で行ったら『縁起でもない』なんて言われてしまいます。しかし、ハワイではホスピスなどに通って、握手をしたり、お話を聞いたり、最期のひとときを穏やかに過ごせるようにお手伝いをします。ご臨終に立ち会うことも少なくありません。実際に連絡を受けてICUなどに訪れ、枕経を行うということをしていました。拙い英語しか話せない私を、ご家族は『よく来てくれた』と迎えてくださって、安らかに、穏やかに旅立てるように心を通わせ、みんなで拝みます。信仰に言葉の壁などないということを強く感じるとともに、『これが信仰の本質ではないか』と思いました。これらの経験は私にとって非常に大きな財産となりました」

ターミナルケアに携わったことは、自身の信仰のあり方を変える大きな転機となったようです。

不安な時代を生きる人々によりそう存在として

ハワイでの経験を経て帰国した大江田さん。副住職を経て住職に就く際に「ご縁、安らぎ、定義さん」というテーマを設けました。これには、ハワイで見つめ直した信仰への考え方も生かされています。

「例えばお寺で写経体験をする、茶寮でお抹茶を楽しむなど、いろいろな角度から『定義さん』に触れて、安らいだり、心を軽くしていただけたら嬉しいですね。西方寺のホームページでは、『ほっこり話』というタイトルで随筆(コラム)を掲載していますが、コロナ禍でなかなか参拝に来られない方が少しでも心安らげるようにとの思いで続けています。これからも『お寺はこういうもの』という固定概念にとらわれない、本質的な信仰のあり方を提供していきたいです」

コロナ禍で自粛生活が続き、不安の多い現代において、大切なことは「心の荷物をおろすこと」だといいます。

「情報があふれている今、『こうしなければいけない』、『あれをやらなければいけない』、『あの人の顔色が気になる』…など、どうしても心が重くなってしまいがちです。せっかくここに来てくださったなら、その心の荷物を少しでも軽くして帰っていただきたい。荷物をおろして、如来様にご縁を結んでいただけたらと思います。澄んだ空気が漂う境内でゆっくり深呼吸をしたり、自然に触れたりするだけでも、気持ちが穏やかになるはずです」と話します。

くわしくはこちらを
ご覧ください

JoinT
vol.37 2021
(PDF 4.7MB)

広報誌『JoinT』のバックナンバー一覧に戻る

© TOHKnet Co., Inc.

お問合せ

トークネット光

pagetop