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トークネットのコミュニケーションマガジン

柳都振興株式会社 古町芸妓
志穂さん(振袖さん)
菊乃さん(留袖さん)

[ プロフィール ]
菊乃さん(写真右)/新潟市出身。高校卒業後、柳都振興株式会社に入社。芸妓歴7年。今年2月から「留袖さん」となる。
志穂さん(写真左)/長野県出身。地元の高校から、新潟市にある着物の専門学校に進学。卒業後、柳都振興株式会社に入社。芸妓歴3年。

新潟の花街に舞う古町芸妓
稽古を重ね芸を磨き、道をつなぐ

江戸時代から約200年の伝統を誇る、新潟県の「古町芸妓」。
この歴史ある芸妓文化を守るため、1987年に「柳都振興株式会社」が設立され、
全国初の芸妓養成・派遣会社として事業を展開しています。
柳都振興に所属する菊乃さんと志穂さんのお2人に、古町芸妓としての誇りと芸の継承と芸妓文化に対する想いについて伺いました。

全国初、置屋の株式会社が設立

国内有数の米の産地新潟は、江戸時代、西回りの北前航路の拠点として賑わい、多くの料亭が軒を連ねていました。その頃に「古町芸妓」が誕生し、昭和初期の最盛期には300人あまりの若い芸妓たちが活躍したといわれます。

しかし、時代とともに古町芸妓の文化も衰退し、昭和40年代頃から若い新規参入が激減し、平均年齢が50代という事態に陥りました。

そこで、「伝統ある古町芸妓の文化を守ろう」と、地元の有力企業約80社が出資し、1987年、芸妓の養成と派遣を行う「柳都振興株式会社」が設立されたのです。この取組みは、いわば「置屋」を株式会社化した画期的なものでした。これまでは、現役を引退した芸妓が置屋を開業し、そこで芸妓を育てるというのが慣わしでした。

柳都振興に所属する芸妓たちは「柳都さん」といい、そのうち若い芸妓は「振袖さん」、7~8年経験を積んだ芸妓は「留袖さん」と呼ばれます。そして、柳都振興誕生以前に活躍し、古町芸妓として長いキャリアを持つお姐さんは「一本さん」といわれます。

柳都振興の留袖さんと振袖さん

高校卒業と同時に柳都振興に入社した菊乃さんは、7年間振袖さんを務めた後、今年2月に留袖さんになりました。

「進路を考える前は、古町芸妓についてほとんど知りませんでしたが、3歳から習っていた踊りを活かせる仕事がしたいと思っていました。その時に、柳都振興のことを知り、芸妓さんのお稽古場を見学に訪れて、進路を決めました」

柳都振興も一般の会社と同様に、リクルートスーツを着て試験と役員面接を受けます。「他と違う点は、日本髪が似合うかどうか、おでこを上げて生え際を見せるところ」と菊乃さん。ご両親も「好きなことなら挑戦してみればいい」と、応援してくれたそうです。

菊乃さんとは逆に、はじめは 反対されたという志穂さんは、芸妓歴3年の振袖さん。

「長野県の高校を卒業後、新潟市内にある着物の専門学校に入りました。学生の時に着物姿の古町芸妓の踊りを見て、格好いいなと思い興味を持ちました。しかし、長野には花柳界の文化がないので、親の頭の中はいわゆる江戸時代の芸者さんのイメージが強かったんです。一悶着ありましたが、株式会社であることや、会社のホームページを見せたら納得してくれました」

置屋の株式会社化の反響は大きく、柳都振興には遠方からも芸妓を目指す若い人たちが試験を受けに訪れました。現在所属する14名(2020年3月時点)の中には北海道や九州、沖縄出身の芸妓もいるそうです。

稽古に励み、自信につなげる

古町芸妓の日課はお座敷とお稽古。「お稽古がある日は、昼前に出勤し、着物に着替えてお師匠さんの家に伺います。それ以外の日は3時半の出勤時間まで、それぞれ自由に過ごしています」と菊乃さん。芸妓たちのお稽古は、主に踊りと長唄、つづみや太鼓の鳴り物です。その他、お茶や笛など素養として必要なお稽古に励んでいます。

その芸事を支える1人が、新潟を拠点とする日本舞踊市山流七代目宗家で、新潟市無形文化財保持者である市山七十郎(なそろう)さん。これまで多くの古町芸妓が学び、その芸を古町花街の中でつないできました。

「芸事には“ここまで”という終わりがなく、常にさらに上を目指します。だから、この仕事をしていると、必ず1回は壁にぶつかるんです。私もお座敷で踊ることが怖くなったことがあります。その時に拠り所となるのがお稽古です。苦しい時でもお稽古を続けることで乗り越えることができますし、自信につながります」と菊乃さん。

また、志穂さんは「お稽古はやればやっただけ自分に返ってくると思うんです。お座敷のお客さまや、同業のお姐さん方はそれを見ていて、頑張ってきたことを褒めていただくと、成長できたと思えて嬉しいです」と話します。

古町花街に息づく芸妓文化を守る

新潟市では芸妓文化の継承、保存が地域や街ぐるみで行われています。柳都振興がある中央区古町通8番町から9番町を中心としたエリアを古町花街と呼びます。老舗の料亭が立ち並び、芸妓たちが活躍する場所です。戦前からの歴史的建造物が多く残る街並みを守ろうと、2015年に新潟市民文化遺産に認定されました。

料亭のお座敷以外にも芸妓文化を楽しめる場は広がっており、新潟観光コンベンション協会では、芸妓の舞とお座敷遊びを体験できる「新潟花街茶屋~新潟古町芸妓の舞鑑賞~」を開催しています。また毎年3月、りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)能楽堂で、日頃のお稽古の成果を発表する『華つなぐ道』を開催。古町芸妓が総出演する大きなイベントで、『ふるまち新潟をどり』や若手によるお芝居など、さまざまな演目が披露されます(今年は無観客で開催)。

「古町芸妓を守っていくためには、新しい人がどんどん入って振袖さんが増えることが一番です。そうした後輩たちの憧れの存在になることを常に念頭においてお稽古しています」と菊乃さん。志穂さんは「一本さんとして独立したお姐さん方の中には子育てをしながら続けている方もいます。古町花街の発展に自分も貢献したいと思います」と話してくれました。

将来は、自分の置屋を持つことが夢というお二人。これからも古町芸妓の文化継承とともに、芸を磨く心をつないでいきます。

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