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トークネットのコミュニケーションマガジン

写真家/水景クリエイター
天野 尚(あまの たかし)

プロフィール
新潟県出身。写真家、水景クリエイター、株式会社アクアデザインアマノ代表。1992年佐渡で撮影した水中写真「鬼踊り」で富士フィルム・ネイチャーフォトコンテスト、グランプリを受賞。近年は写真展や講演活動を通して、国内外で環境保全の重要性を伝えている。世界環境写真家協会会長。

株式会社アクアデザインアマノ
新潟市西蒲区漆山8554-1
TEL.0256-72-6666
HP.http://www.adana.co.jp

ありのままの自然を写す
次世代へのメッセージ

北海道洞爺湖サミット(2008年)に展示された佐渡原始杉の特大写真、すみだ水族館の巨大ネイチャーアクアリウムに代表されるように自然や生物のありのままの美しさを発信し続けているアクアデザインアマノ代表の天野尚さんに、新潟支社丹治修也が伺いました。

思いを全うする力

元競輪選手。手つかずの自然をテーマにアマゾン、ボルネオ、西アフリカの世界三大雨林や日本の原生林を撮影する写真家であり、その自然を「ネイチャーアクアリウム」という水槽の世界へ創造する水景クリエイター。多才な顔を持つ天野尚さんですが、その根底には「自然から学んだ」思いが貫かれていました。

「子どもの頃、家の近くに鎧潟(よろいがた)があり、毎日のように遊びに行ってた。そこにはゲンゴロウや魚、イモリが居て、潜ると水草が真珠のような泡をたたえている。美しく神秘的な世界に惹かれ、自分の部屋に置きたいと思ったのが始まりです」

水草が繁茂した水槽を作りたいと小学5年生の時から自作を始めた天野さん。24歳までは失敗の繰り返しでした。趣味を全うするために競輪選手の道に進み、獲得賞金のほとんどを水槽と写真に注ぎ込みました。

「水槽を作るたびに失敗原因やさまざまなことをメモってた。そのうち二酸化炭素が原因かなと思った。大学の教授や企業の研究者に相談したところ、一様にありえない、間違った考えだと一蹴されました。もう何をしても育たないので辞めようと諦めかけたときに、ハイボールを飲んでこれだと思い、炭酸水を水槽に入れた。すると枯れかけた水草に子どもの頃に見た真珠のような泡ができたんです。感動したと同時に、自分が思っていたことが正しかったと分かって嬉しかったねぇ。そのときのことは今でも忘れられません」

2つの創作活動は両輪

誰もが信じなかった二酸化炭素の供給は、自然と向き合ってきた天野さんの経験によって実証されました。

「常識にとらわれずに、自分の経験や勘を信じて良かった。すべては自然から学んだこと、長年の撮影活動を通して得たものです。ネイチャーアクアリウムを創作する際の構図の取り方、流木や石組の使い方も自然が教えてくれた。写真と水景、私が取り組んでいる2つの創作活動は、生き物が調和した生態系の、ありのままの姿を二次元と三次元で表現したもの。互いに補い合う両輪であり、どちらが欠けていたら今の表現方法はなかったと思いますね」

膨大な自然の情報を緻密にとらえるために、現在も最大8×20インチの超大判フィルムを駆使し撮影。その感性がネイチャーアクアリウムに反映されているのです。

アマノマジック、世界へ

以前、アメリカの雑誌の表紙に”AMANO MAGIC”の文字とともに、天野さんが撮影したネイチャーアクアリウムの写真が紹介されました。解説には「この水槽は自然の水中を撮影したものではありません。TAKASHI AMANOが制作した水槽です」と記載されたそうです。

「人を騙すのは意外に簡単。一流を目指すならこのくらいできないと。では、一流と超一流はどう違うか分かりますか?

一流は人間を騙せて、超一流は魚を騙せるんです。アマゾンの魚を水槽に入れて、自分の故郷だと思わせるくらいに騙せたら、超一流ですね」

そのエピソード後、1992年に写真集『ガラスの中の大自然』を出版。続く写真集『水・自然への回帰』とともにアメリカやドイツ、オランダなど5か国語に翻訳され、世界各国で出版。鮮明な描写は国内外から高い評価を得ました。

「水の流れや生き物の息吹、肌で感じる痛みや感触。感動といった五感までも水槽のレイアウトに生かしています。ネイチャーアクアリウムを通して、その背後にある自然の壮大さを感じてもらいたいですね」

語り継ぐための記録

数々の自然を写しとってきた天野さんの超大判カメラ。

「8×20インチ判は世界最大級で、世界でも私だけが使っているもの。大判フィルムにこだわるのは、生態系を構成している多様な生き物の一つひとつまで克明に記録するため。その描写力は視力6.0に相当すると言われています。この風景を一人でも多くの人に見てもらい、自然の変わりゆく現状に目を向けてほしいですね」

森林伐採や焼畑によって、驚異的な速さで自然破壊が進んでいるのを肌で感じているそうです。

「自分たちが住む場所で考えてみても、50年前と現在とでは随分環境が変わったって感じるでしょう? 地球の歴史で考えると50年は短いけど、驚くほどの速さで自然環境は破壊されてる。アマガエルやアブラゼミ、赤とんぼもほとんど見かけなくなったよね」

人間が自分たちの都合ばかりを優先してきた結果、自然のバランスが崩れてきている。小さな生き物も植物も、人間も、命の重さはみな同じで自然の一部なのだと、天野さんの写真が教えてくれます。

「このフィルムは300年後も残るらしいので、未来の子どもたちに語り継ぐための記録として残したい。その頃の新潟は、どんな風景になってるんだろうね」

常に行動し続けること

一人でも多くの人に、自然に関心を持ってもらいたい。そのためにこれからも自然の写真を撮り続け、ネイチャーアクアリウムを作り続けたい、と話す天野さん。2012年には東京スカイツリータウン内のすみだ水族館に、水槽サイズ、容積がそれぞれ世界一となる2つのネイチャーアクアリウムを制作。また、60を超える国と地域から作品が集まるという「世界水草レイアウトコンテスト」を開催するほか、世界の水族館からのオファーも多く、国内外を忙しく駆け回っています。

「常に行動し続けることを信条にしてきた。分からなかったり悩んだりしたときは、五感を使い行動してみることが一番。私はそうして自然からたくさんのことを学んできたんです」

最後に、次世代に伝えたいことについて伺いました。

「会社のスタッフには、生き物には手を抜かずに集中してやりなさいと言っています。生き物の都合になって考えること。つまり、創造力や感性を研ぎ澄ますことですね。人間として豊かであるためには経済的なことではなく、感性が一番大事。その感性を育てるのは自然なんです。自然とともに共存共栄する未来になることを願っています」

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vol.03 2013
(PDF 8.0MB)

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