プロフィール
昭和51年、岩手医科大学医学部卒。国立病院医療センター(現国立国際医療研究センター)麻酔科勤務、岩手医科大学医学部法医学講座、同医学部第1内科科学(現消化器・肝臓内科)講座、岩手県立大槌病院内科長、岩手県立住田病院(現住田地域診療センター)院長、岩手医科大学医学部法医学講座非常勤講師、岩手県立軽米病院院長、岩手県立千厩病院院長。平成17年、岩手県立二戸病院院長。平成23年から、岩手県立宮古病院院長。
岩手県立宮古病院
岩手県宮古市崎鍬ヶ崎1-11-26
TEL.0193-62-4011
HP.http://www.miyako-hp.jp/
本州最東端に位置する「岩手県立宮古病院」。
宮古市をはじめ山田町、岩泉町、田野畑村を医療圏としています。
この圏域唯一の広域基幹病院として、宮古病院が担う役割とは。
東日本大震災直後に赴任した、佐藤元昭院長に伺いました。
現在、宮古病院は、地域の広域基幹病院として、1次(初期)から、2次(入院・専門外来)、3次(特殊・先進的)までの医療を担い、年間約1万2千人の救急患者の治療に当たっています。同じ医療圏の地域病院だった、岩手県立山田病院が、東日本大震災による大津波で被災。2次救急医療の輪番制に参加できないため、宮古病院が全夜間・休日の救急を、一手に引き受けている状況です。
「地域医療の充実には、地域の医療機関との連携が不可欠です。宮古病院では、医局員の約90%が地域医師会に加入し、宮古病院と診療所が役割を分担して、病診連携で医療を行うようにしています」
佐藤元昭院長は、以前から、医療の役割分担と連携の必要性を、強く訴えてきました。その課題の一つが、かかりつけ医を持つことへの理解です。
「かかりつけ医とは、自分の家から近い診療所、開業医の先生です。まず、かかりつけ医の先生の所を受診するように勧めています。そこで、検査や入院が必要な場合は診療情報提供書(紹介状)を書いて、専門医などに紹介してくれます。この紹介状があると、病院では有利なんですよ。紹介状を持ってきた患者さんを診た医師は、紹介した診療所の先生に、返事を書かなければならないので、丁寧に診てくれます。そして、病状が安定したら、またかかりつけ医に戻り、診療を受けられます。患者さんにとっては、診療所と病院に2人の主治医を持つことになるので、心強いですよね」
『あったら良い病院』ではなく、『なければならない病院』を目指しているという佐藤院長。宮古病院では、より充実した地域医療の実現のため、地域医療福祉連携室を設置しました。佐藤院長は、連携室の室長も務めています。
「今は病院単独ではやっていけない時代。医科診療所はもちろん、歯科医師会や薬剤師会、介護施設などとの連携も必要です。毎週1回患者サポートカンファレンスを開き、月1回は連携室会議も開催しています。今年の6月から毎月1回、地域公開研修会を開催し始めました。けっこう評判が良くて、病院内から30人、病院外から50人以上集まるんですよ」
地域医療福祉連携室では、今年度から連携コーディネーターを新たに配置しました。
「コーディネーターとメディカルソーシャルワーカーとともに、地域の病院やクリニックへの訪問活動をしています。訪問先の医師や看護師と直接会って、意見交換し、地域の医療機関とのスムーズな連携を目指しています」
また、地域医療の充実には、行政や大学との連携も欠かせないと佐藤院長。
「当院は、『みやこサーモンケアネット』という、宮古市の医療情報連携システムの中心的役割を担っています。岩手医科大学とは、『いわて東北メディカル・メガバンク』事業や、CT・MRIの画像情報を伝達し、遠隔医療を実践してデータを共有するなど、連携しています」
地域の医療機能の役割分担と連携は、医師不足の解消にもつながっていきます。
「宮古病院での私の使命は、医師の数を増やすこと。多い時で50人だったのが、震災の前年には約半数まで減少していましたから。原因は外来患者さんの多さです。外来の診察が終わるのが午後3時~4時で、そこから病棟の仕事や検査があり、回診は夜になってしまう。そんな状態では医者も負担が大きくなりますよね。本来、地域の広域基幹病院の役割は、入院と検査、救急、手術です。そのため、外来を少し減らしましょうということで、近隣の診療所と役割を分担して、紹介状を持った患者さんを優先にしました。当初は、住民の方々からの苦情も多かったですが、機会を見つけて説明して、少しずつ理解していただいています。おかげで現在は、医師の数は37人まで増えました。あと3~4人は欲しいところですね」
外来の縮小だけでなく、佐藤院長は、病棟を一つカットし、一般の病床数を363床から279床に削減しました。救急医療も担う宮古病院には、当直勤務がありますが、医師の数に対してベッドが多いと、当直勤務医師の負担が大きくなります。
「当然、反発はありましたが、患者さんの動向や病床利用率などを鑑みた結果です」
病棟を削減した5階フロアには、がん診療の充実を図るため、外来化学療法室を5床から12床に整備・拡充したほか、患者さんや家族のためのがんサロンを開設しました。また、岩手医科大学が主体となっている、被災地の子どもの心のケアのための「いわてこどもケアセンター」事業に協力。宮古ブランチとして場所を提供しています。さらに、4階を小児・女性専用病棟としたほか、救急外来から即入院可能なER病床を7階病棟に配置しました。これら病棟病床の再編成は、地域の医療機関との役割分担と連携があってこそ実現するもので、結果として、質の高い医療を地域に還元できるのです。
「今、医師の増員と併せて、取り組んでいるのが、研修医の確保です。一時期、1人だけの時もありましたが、現在は6人の研修医がいます。宮古病院は、麻酔科や放射線科に常勤医がいる、周産期医療体制(※)がしっかりしている、結核病棟を持っているなど、総合診療科的な研修には最適です」
研修終了後、宮古病院に残る研修医がいれば、医師の増員につながり、病院にとってはプラスになります。 また、地元の中学・高校生が、医師の仕事に関心を持ち、志すきっかけをつくるための体験学習や研修なども行っています。
「中学生には、実際に白衣を着用し、機器を操作できる『1日ドクター体験』を開きました。高校生には、医学部進学についての講演を行い、地域医療への関心を高めるための取り組み、奨学金制度、地域枠推薦などについて話しました」
医師不足解消の一つという、この取り組みは、もはや病院のみでなく、宮古地区全体の将来を見据えた試みとなっています。
※妊娠・出産から新生児まで一貫した高度かつ専門的な医療を提供する体制。
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