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トークネットのコミュニケーションマガジン

りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督/Noism芸術監督
金森 穣 氏(かなもり じょう)

プロフィール
ルードラ・ベジャール・ローザンヌにて、モーリス・ベジャールらに師事。ネザーランド・ダンス・シアターⅡ、リヨン・オペラ座バレエ、ヨーテボリ・バレエを経て2002年帰国。2003年、セルフ・プロデュース公演
『no・mad・ic project~7 fragments in memory』で朝日舞台芸術賞を受賞、2004年、りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督に就任しNoismを立ち上げる。2007年度芸術選奨文部科学大臣賞、2008年度新潟日報文化賞受賞。2014年、新潟市文化創造アドバイザーに就任。

Noism(ノイズム) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
新潟県新潟市中央区一番堀通町3-2
TEL.025-224-7000 HP.http://www.noism.jp

新潟から世界へ発信する劇場専属舞踊団のパイオニア

「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」に日本初のレジデンシャル・ダンスカンパニー(劇場専属舞踊団)として、2004年に誕生した「Noism」。
昨年10年の節目を迎え、いま新たな一歩を踏み出したプロ集団を率いる芸術監督・金森穣さんが、地域に劇場文化を根付かせる意義を熱く語ってくれました。

日本初の劇場専属舞踊団

金森穣さんと新潟市民芸術文化会館(以下りゅーとぴあ)との出会いは2003年。海外の舞踊団で活躍し帰国した金森さんが、りゅーとぴあ製作の市民ミュージカルにゲスト出演したことが縁で、舞踊部門の芸術監督就任の打診を受けました。

「最初、東京での活動をベースにして、舞踊に関するアドバイザーとしての役割を求められました」

しかし、金森さんは単に劇場の〝顔〟ではなく、劇場専属舞踊団を作り新潟を拠点に活動することを提案したのです。

「ヨーロッパでは、劇場のある地方都市に芸術監督が住み、専属の舞踊家やスタッフが雇用され、劇場から地域独自の文化が発信されます。日本の劇場もそうあるべきと思っていました」

金森さんが目指すのは、劇場文化を成熟させること。それを新潟から発信することでした。

「日本の地方には、素晴らしい文化施設がたくさんあるのに、多くは市民活動に利用するだけ、あるいは東京から買ってきた作品を上演するだけの施設になっています。もちろん市民へのサービスも必要ですが、劇場から文化を発信し創造するには、それだけではダメなんです」

プロの舞踊家を雇用して劇場専属舞踊団を立ち上げる。前例のないことを行政が受け入れるのは難しく、理解してもらうのは容易ではなかったはず。

「理解というよりは、もっと直感的なことだと思うんです。そもそも舞踊芸術自体を理解することが難しい。こちらも必死で訴えましたから、想いや熱意を汲み取ってくれたのだと思います。当時の『りゅーとぴあ』の事業課長が市長に直談判してくれて発足が決まったんです」

地方で続けることの意味

2004年、新潟市に日本初の劇場専属舞踊団「Noism」が発足。金森さんにとっては、まさにここからが奮闘の日々でした。

「舞踊家たちに給料を払うための予算交渉、スタジオを優先的に利用できるようにするための交渉、更衣室の確保…など、すべて交渉することからスタートです。そのためには、どう説明すれば伝わるか、言葉の選び方や行政のものの考え方についても勉強しましたね」

そして何より、劇場専属舞踊団の存在意義を、活動を通して立証していかなければなりません。給料を保障し、稽古場の環境を整えてもらったからには、それに見合った仕事ができる舞踊家が必要です。オーディションで選ばれた舞踊家たちは、金森さんと同様に新潟に住み、日々トレーニングを積み重ね、Noismとしての活動の成果をステージで披露してきました。ヨーロッパから帰国した時のことを金森さんは振り返ります。

「東京で作品を創りながら、日本の舞踊家たちのレベルの低さに驚きました。圧倒的にトレーニング量が足りないんです。東京では、専用のスタジオで時間を気にせず稽古できる環境は少ない。でも地方なら、劇場専属となることで生活も保障され、稽古に集中できる場所を確保できます」

舞踊家の身体が見せる非日常性

昨年、Noismは設立10周年を迎えました。現在はプロフェッショナルカンパニーの「Noism1」と、研修生カンパニー「Noism2」で構成されています。2014年6月に発表された10周年記念作品、劇的舞踊『カルメン』は大きな反響を呼びました。

そして活動11年目のシーズン幕開けを飾った公演は『ASU~不可視への献身』。第1部『Training Piece』は、カンパニー独自のトレーニング法とその理論を作品化。Noismのトレーニング法は、かねてより公開を求める声が多く、10年の節目を機に作品としてアレンジされました。第2部『ASU』はアジアの中央、アルタイ共和国に伝わる〝カイ(喉歌)〟という歌唱法による音楽を用いて創作された作品。金森さんは「ある種のトランス状態で、音楽に身をゆだねた民族的、野性的な振り付け」と表現します。

「作品を観た時のとらえ方は人それぞれで良いんです。その人の置かれている状況や生き方によって違いますから。トレーニングによって鍛え抜かれた、舞踊家たちの身体が表現する世界を鑑賞することができる。そんな非日常的な空間が劇場であり、劇場文化に触れることで自分自身の新たな気づきにつなげてもらえれば」

だからこそ、舞踊家への要求も高くなり「若いメンバーにはもっと能動的に動けるようになってほしい」と期待を寄せます。作品の世界観を形にする衣裳や美術のクリエイターに関しては「自分がリスペクトできる相手と仕事をする」と金森さん。それぞれ良い意味で刺激し合うことで、プラスアルファのものが生まれると話します。

劇場文化の在り方について

この10年、金森さんが思い続けてきたのは、他の自治体にも劇場専属舞踊団が誕生すること。

「残念ながらまだできてない。各地の劇場が専属集団の活動を通して刺激し合い、相対化することによって劇場文化が成熟していくと思うんです。5年後の東京オリンピックに向けて、さまざまな文化プログラムが実施されますが、このタイミングで何か起こることに期待したいですね」

文化庁の「2020年に向けた文化イベント等の在り方検討会」委員の他、さまざまな場で発言の機会がある金森さん。劇場専属舞踊団のパイオニアとして、劇場文化の在り方をこれからも発信し続けます。

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vol.10 2014
(PDF 10.1MB)

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