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トークネットのコミュニケーションマガジン

天童木工 常務取締役製造本部長
西塚 直臣 氏(にしづか なおおみ)

プロフィール
昭和27年8月 山形県尾花沢市生まれ
昭和50年3月 東京農業大学 農学部林学科卒業
     4月 天童木工入社 大阪支店営業課勤務
平成 2年4月 製造本部 資材課課長
平成19年4月 製造本部製造部長
平成21年6月 取締役製造部長
平成27年6月 常務取締役製造本部長

株式会社 天童木工
山形県天童市乱川1-3-10
TEL.023-653-3121
HP.http://www.tendo-mokko.co.jp

定説を打ち破る挑戦力
日本のスギ山を救う家具メーカー

1940年、山形県天童市に創業した家具メーカー「天童木工」。
成形合板の技術を日本で初めて取り入れ、数々の製品を世界へ発信してきました。
近年は軟質針葉樹の加工技術を開発、実用化に貢献したことが評価され、
昨年「第6回ものづくり日本大賞」で内閣総理大臣賞を受賞。
製造本部長の西塚直臣さんに、技術開発の経緯や展望について伺いました。

天童で生まれた「ものづくり」集団

天童木工の始まりは、地元の大工や建具、指物などの職人が集まって結成された工業組合でした。終戦後、生活用品の製造を開始し、進駐軍用の家具を大量受注したことを機に、成形合板の装置を導入。当時の商工省工芸指導所の指導を受けデザインを学び、洋風家具を手掛けるようになりました。

「1947年、進駐軍の家具を作る際にコンペがあり、有名百貨店が名を連ねる中で天童木工だけが“特A„の評価だったそうです。技術が認められ会社が全国的に知られたのはその頃からでした」

そう話すのは、常務取締役製造本部長の西塚直臣さん。天童木工の評価を決めた成形合板とは、薄くスライスした木の板(単板)を何枚も重ね、自在に曲げて成形する技術。北欧で生まれたこの技術を日本で最初に取り入れた天童木工は、量産できる、美しい曲線の木工家具を作るメーカーとして注目を集めます。世界的デザイナーや建築家たちとのコラボレーションにより、数々の作品を世に送り出してきました。1956年発売、柳宗理氏がデザインした「バタフライスツール」は、日本を代表するイスとして有名です。

日本の山のため日本の木を使う

昨年、天童木工は「第6回ものづくり日本大賞」の最高賞を受賞。軟質針葉樹を圧密成形加工し、家具用材に利用する技術の実用化が評価されました。受賞したのは、製造本部長の西塚さんと製造部の社員4名。「驚きました。自薦ではなく、他薦機関で認められないと応募することができない賞なので、嬉しかったですね」と西塚さん。

そもそも天童木工が軟質針葉樹の加工技術の開発に取り組んだのは、ある思いから。それは “木„とともに歩んできた職人たちの願いとも言えます。

「スギは生長が早く管理もしやすいため、戦後全国で植林が奨励されました。しかし今は、輸入材や需要の低下により木材が流通せず、山の管理が難しくなってきています。実は花粉症とも関係が深いんですよ。戦後植えたスギが開花適齢期になり、今大量の花粉が発生しています。昔の人に花粉症が少ないのは、木自体が花粉を出してなかったから当然なんですね。私自身、銀山温泉の近くにスギを植林した山を保有していますが、何とかこのスギを活用できないものか、ずっと考えていました」

業界の常識を覆した国産スギの家具

家具に使われる木材はブナやナラなどの広葉樹。針葉樹は軟らかく傷が付きやすい。天板の上で文字を書こうものなら筆跡がそのまま机に残ってしまう程です。曲げると折れやすいため、強度や加工の面からも家具には不向き、というのが定説でした。それを可能にしたのが、今回開発された新しい圧密加工技術と、天童木工が長年錬磨し続けてきた成形合板技術。圧密加工とは、加工木材を圧縮して木の密度を高める技術で、建築材分野では一般的でした。

「しかし、従来の圧密加工では、圧をかける際に熱が加わるため木材表面が黒く焦げ、スギの持ち味である色味や風合いが消えてしまって…」

既存の装置では理想の板を作り出せないことを実感した西塚さんは、圧密化装置の開発を決意。機械メーカーに注文し、ようやく完成した新しい装置は、思い通りの圧縮と温度調整ができ、さらに量産できるスピードも兼ね備えたものでした。この装置で理想的な厚さに圧密加工された単板を、成形合板加工することにより、家具としての使用に耐えうる十分な強度と、複雑な曲線を描くデザインも可能になりました。しかし、スギ材の成形合板による家具作りは職人たちにとっても未知の世界。デザインによって重ねる厚さも異なるので試作の連続でした。

そうして開発から3年後の2014年、天童木工は国産の針葉樹を使ったシリーズを発表。肌色に近いスギの柔らかな色味や美しい木目の家具は、発表後たちまち反響が広まり問い合わせが殺到。さらに、「ウチの山のスギも使って欲しい」といった問い合わせもあるそうです。

もともと日本の山に眠るスギなどの針葉樹を活用するために開発スタートした新しい加工技術。予想以上の反響に「各地のスギを仕入れて天童木工で加工し、製品を里帰りさせる仕組みを作っています」と西塚さん。敷地内には九州や四国などから届いた丸太が積まれています。

スギの可能性を広げる天童木工の挑戦

天童木工のスギ活用は、家具以外にも広がっています。圧縮した板が復元するスギの特性を利用して、“燃えない・腐らないスギ„の研究を進めています。

「難燃剤を浸透させる処理技術を開発し、現在完成に近づいています。不燃・準不燃・難燃スギという形で2016年の間に認定を取る予定です。難燃木材ができれば、建物の壁や床など建材としての用途が期待できます」

スギの需要が増えれば、日本国内で眠っていた山も、きっと再生されていきます。日本固有種のスギは学名「クリプトメリア・ヤポニカ」。ギリシャ語で“隠された日本の財産„という意味を持つそうです。

「スギを家具や建材に使う目処はある程度つけました。これからはそれを循環させる仕組みが必要です。新国立競技場で国産木材が使用される予定ですが、国の政策としても、いろいろな分野に広げてほしいですね。もうスギを眠らせておくのはもったいない。表舞台に上げていかないと」

西塚さんと天童木工の「ものづくり」への挑戦はまだまだ続きます。

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vol.14 2016
(PDF 11.4MB)

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