プロフィール
1977年、千葉県生まれ。2006年に星野リゾート入社。「星野リゾート 磐梯山温泉ホテル」の営業支配人を経て、2014年より「星野リゾート 青森屋」の総支配人に就任。
星野リゾート 青森屋
青森県三沢市字古間木山56
TEL.0570-073-022(星野リゾート予約センター)
http://noresoreaomoriya.jp
祭りや食、伝統工芸品など青森の文化を丸ごと体験できる温泉旅館として
観光客に人気の「星野リゾート 青森屋」。
一度宿泊したら、また訪れたくなるリピーターが多い宿の人気はどこにあるのか。
再生した青森屋が次に目指しているものは何なのか。
新しい発想で旅館をけん引する、総支配人の渡部賢さんに伺いました。
星野リゾートが、経営破綻した大規模温泉旅館(古牧温泉)の運営を引き継ぎ、「星野リゾート 青森屋」として再生に向け歩み出したのは、2005年のこと。その後、5年で黒字化した復活劇は、各メディアで取り上げられました。
渡部賢さんが、3人目の総支配人として就任したのは2014年。星野リゾートは、社員が自分たちでキャリア形成できる環境にあり、総支配人は立候補によって決定されます。渡部さんは2011年に起きた東日本大震災が転機となり、青森屋の総支配人になろうと思いました。
「当時、星野リゾート 磐梯山温泉ホテル/星野リゾート アルツ磐梯でマーケティングチームの責任者として働いていました。その頃は、自分たちが成果を出せば地域に還元できると思っていました。その考え自体は間違いではありません。しかし震災は、それだけではどうにもならないと思い悩むほど、衝撃的な出来事だったのです。星野リゾートで働いているからには、自らがけん引役となり、観光を通して東北の復興に貢献していきたい、という気持ちが強くなりました。それができる場所を考えた時、青森屋の総支配人という道にたどり着いたのです」
青森に来たのは初めてだったという渡部さんは、「まだまだ知られてない魅力がたくさんありそうだな」という印象を持ったと振り返ります。地域の魅力を掘り起こし、発信していく。この課題にどう向き合ってきたのでしょうか。
「魅力を掘り起こすには、“気づく人”と“深みを出す人”の存在が必要です。星野リゾートのスタッフは、日本各地から集まっており、地元では当たり前のことを魅力として気づくことができます。一方、地元の人は、魅力を深めるために何が必要かを考えることができます。青森屋には、“魅力会議”があり、スタッフ一人ひとりが考えていることを提案する機会を設けているんです。全員がそれぞれの役割を果たし、施設を盛り上げています」
青森屋のコンセプトは、『のれそれ青森~ひとものがたり~』。“のれそれ”とは、津軽弁で「目いっぱい」「徹底的に」という意味です。お客さまに、スタッフとのふれ合いも含めて目いっぱい青森らしさを感じてもらいたい、そんな想いが込められています。
このコンセプトを形にした、さまざまなショーとサービスが青森屋の魅力。宿泊客に好評で、名物となっている「みちのく祭りや」は、食事をしながら青森ねぶた、弘前ねぷた、八戸三社大祭、五所川原立佞武多のお囃子が1年中楽しめるショーレストランです。山車は実際に祭りで使われたものを譲り受けました。青森の方言による司会進行、祭り囃子、山車引き、すべてスタッフにより披露されます。ショーのフィナーレは、宿泊客も参加してスタッフと一緒に踊ることができる、跳人(はねと)体験です。
「みちのく祭りや」のほか、毎晩無料で開催される「じゃわめぐショー」でも、ねぶた囃子や津軽三味線、青森民謡が楽しめます。雪かき用のスコップを栓抜きで叩くスコップ三味線は、スタッフ自ら披露し、宿泊客にも体験する機会があります。
「体験したことは記憶に残ります。お客さまは非日常を求めて旅行されるものです。青森屋は空間づくりを大切にしています。ショーのように心が躍る“動”の空間と、客室やラウンジ、南部曲屋など、落ち着いた“静”の空間。静と動、二つの非日常的な空間の中で、青森を感じて思い出にしていただけたら」と渡部さん。
お客さまに喜んでいただきたいという「おもてなし」の精神に、青森屋人気の理由が隠されていると言えます。
「一番重要なのは、まずは自分たちが楽しんでいるか、ということです。自分が楽しいから、その気持ちをお客さまに伝えるため一生懸命になる。だからお客さまには、スタッフが活き活きして見えますし、お客さま自身も楽しくなるのでしょう。旅はしなくても生きていけますが、心を動かし、感動を与え、人生に深みを増すものです。その時の思い出があるから、またご来館いただけるのだと思います」
昨年、青森屋は県主催の「青森観光アプリ開発コンテスト」に協力参加。これは「青森屋の魅力を伝えるとともに、青森県のファンを増やす」ことをメインテーマにして、コンテスト参加者が実際に青森屋に滞在することで、魅力を体感しながらアプリの企画・開発を行うというものでした。
また、今年1~2月には「青い森鉄道」の協力を得て、冬限定の観光列車「酒のあで雪見列車」を運行。列車を貸切にし、車内では青森の地酒や停車駅の名産珍味(あで=つまみ)、祭り囃子の生演奏を楽しめるという企画です。
「青森に来て最初の1~2年は、青森屋がしっかり地域の魅力を表現し、お客さまに満足していただける宿にすることが目標でした。昨年頃から、地域の方々と一緒に青森の魅力発信に向け、取り組んでいます。ようやく、より地域と関われることを意識的に行う段階になりました。日本各地から来た私たちが青森の素晴らしい部分に気づき、地元の方々が深みを出してくれる。それが地域の魅力を掘り起こすことにつながっていくと思います」
青森屋内で行ってきた「気づ くもの」と「深みを出すもの」の “共成”を、今度は地域全体の取り組みとして、ともに実践していく。星野リゾートが発信する、既成概念にとらわれない、新しい青森観光に期待が寄せられています。
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