ホーム > JoinT > vol.28

JoinT
トークネットのコミュニケーションマガジン

東北大学 加齢医学研究所 所長
川島 隆太氏(かわしま りゅうた)

[ プロフィール ]
1959年千葉県生まれ。1989年東北大学大学院医学系研究科修了。2009年加齢医学研究所スマート・エイジング国際共同研究センターセンター長、2014年より加齢医学研究所所長として務めるとともに、2016年よりスマート・エイジング学際重点研究センター長を歴任。2017年東北大学と日立ハイテクノロジーズによる脳科学カンパニー「株式会社NeU(ニュー)」CTOに就任。

東北大学加齢医学研究所
仙台市青葉区星陵町4-1
TEL.022-717-7988
http://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/

「スマート・エイジング」で人生豊かに
認知症ゼロ社会をめざし「脳を鍛える」

脳機能イメージング分野のパイオニアで、脳機能研究開発の第一人者。
川島隆太先生の研究成果は、「脳を鍛える大人のドリル」シリーズや認知症高齢者への「学習療法」により、広く社会に還元されています。
きたるべき健康長寿社会に向け、科学者として提唱する「スマート・エイジング」の考え方について伺いました。

健康に年を重ねるスマート・エイジング

「『個人は、たとえ高齢期になっても人間として成長し、より賢くなれる。そして社会は、より賢明で持続的な構造に進化する』ことが必要であると考えています。こうした考えを『スマート・エイジング』と呼んでいます」と川島隆太先生は、東北大学加齢医学研究所が2006年から提唱している「スマート・エイジング」について話します。

「日本は少子化の問題も抱えています。加齢を前向きに受け止める社会にするには、やはり健康でいることが大前提になります。健康長寿社会は人生100年時代と言われていますが、科学者の予想では、令和20年には120歳まで寿命が延びるという予測もされています」

スマート・エイジングを達成するための定義として、「脳を使う習慣」「体を動かす習慣」「バランスの取れた栄養」「社会と関わっている習慣」の4つの条件をあげています。

「心身の健康を維持する方法は分かってきていますが、脳についても健康に保つことや、脳の機能を上げるための技術的な方策が分かってきました。また、心や精神面も脳活動ですので、脳が健康でポジティブな思考になり「やる気」が起きることは、データから明らかになっています」

脳科学の研究のため国内外へ

川島先生は、中学時代の失恋がきっかけで脳に興味を持ったといいます。

「自分の頭の中にある考えや思いと、他人のそれは違うのだと実感しました。自分とは何か、なぜ地球に生まれたのかを考えるようになりました。自然科学系の研究は、すべて『人とは何か』を知るためにあります。ふられた経験は、心の働きと脳の働きの関係に関心を抱かせ、研究のモチベーションとなっています」

脳の研究をするため医学部を志した川島先生は、東北大学を受験しました。

「当時『青葉城恋歌』が流行っていて、“広瀬川流れる岸辺”に行ってみたいと思ったんです。受験のために初めて仙台を訪れた時は、自然は豊かだけど寒く寂しい街だと感じました。それから40年近く暮らしていますが、街の中心から少し離れると自然に恵まれ、生活環境も程良く、教育面では小・中・高ともに公立主義が多く、子育てしやすい土地柄だと思います。

私が専門としている『脳機能イメージング』とは、心の働きと脳の働きの関係を視覚的に把握しようとする研究ですが、学生の頃はまだ黎明期でした。大学5年の時、東北大学に日本で初めて人間の脳の働きや機能を画像化できる装置が導入されたのを機に、大学院の研究室に進みました」

大学院に進んだ川島先生は、京都大学に内地留学し、そこでスウェーデンのカロリンスカ研究所のローランド博士の論文とであいます。

「論文の内容は、人が考えているときの脳の働きをポジトロンCTを使って測定することができたという、私が望んでいた研究です。すぐに博士に手紙を書いて、大学院修了後、1991年に客員研究員として迎えてもらいました。スウェーデンは自然豊かで、素朴な暮らしだったため、研究に没頭するには非常に理想的な環境でした」

2年後に帰国した川島先生は、脳研究のノウハウを、さまざまな研究に生かしています。

「大人の脳トレ」で研究成果を社会に還元

「研究の成果を社会に還元し、活用してもらうことは国立大学の義務だと私は思っています。まずは、子どもの教育に役立つことをしたいと考えたのですが、健康な子どもを対象とした研究は倫理上認められず、実現できませんでした」と川島先生は振り返ります。

そこで、研究の対象を認知症の高齢者に変更しました。

「子どもの教育に有益と考えられることを、認知症の人を対象に行うため、高齢者施設にご協力いただきました。『読み書き計算』の学習をしてもらい、学習を通して高齢者と施設スタッフがコミュニケーションをとる研究です。成果は目覚ましいもので、それまで薬で効果の出なかった人も、1日5分程度、簡単な音読・計算を繰り返すことで脳の前頭前野を活性化させ、脳の健康を維持・向上できた例が続出しました」と、川島先生は話します。

研究を仕上げていく過程で、高齢者の認知症予防になる活動をすることになりました。それが、一般の人も書籍で脳のトレーニングができるようにした「脳を鍛える大人のドリル」シリーズ(くもん出版)です。さらに、川島先生監修のもと「脳トレ」をゲーム化した「脳を鍛える大人のDSトレーニングシリーズ」(任天堂)が大ヒットし、脳トレブームを起こしました。

「読み書き計算ドリルの目的は、頭の回転速度を上げ、記憶容量を増やすことにあります。トレーニングすることで記憶容量が増え、知的能力だけでなく運動能力も高まるのです。認知機能を上げた後、維持するためには脳のトレーニングを継続することが大切です」と川島先生。

次世代脳トレの脳科学カンパニー

「どうすれば脳を活性化できるか、ストレスを軽減できるか、雑念を払って集中できるか、という最善の対処法を自分自身 で見つけ出すことが大事です。たとえば、デスク周りを整理整頓してから仕事に取りかかったら脳がすごくよく働いたという発見があれば、それを習慣化すればいいわけです。逆に、これまでは音楽を聴きながら仕事や勉強をしていたけど、実は聴かないときの方が集中度が高いということが分かれば、その習慣を止めればいい。また、最近はリモートワークを導入する企業も増えていて、カフェで仕事をすると集中できるという人もいますが、本当に集中できているのかというのは脳の活動を見てみないと分かりません。脳はとても正直なのです」

川島先生は、2017年8月に東北大学加齢医学研究所川島研究室の「認知脳科学知見」と、日立ハイテクノロジーズの「携帯型脳計測技術」を融合した、脳科学カンパニー「株式会社NeU(ニュー)」のCTOにも就任しました。高齢化における健康寿命の維持・伸長・メンタルヘルスの維持など脳活動を可視化することで「人」によりそった新しいソリューション創生を推進しています。

日常生活の中の脳活動を簡単にモニターできるようにするため、産学連携で近赤外光を利用した脳血流計測装置の超小型化に取組みました。

「東北大学発のベンチャーです。脳科学の知見と技術を軸に、脳の日々のトレーニングを目的として開発された小型軽量の脳活動センサーで脳の活動を計測して、各自に最適な脳のトレーニングメニューの提供や、健康経営の支援、モノづくりやサービス開発の支援、脳血流量変化を計測する研究用機器の開発などに役立てています」

川島先生が新たに挑戦するのは、次世代脳トレ「Active Brain CLUB」です。

脳活動を計りながら鍛える最新脳トレサービスが、認知機能の維持・向上に注目されています。

「認知機能は加齢に伴い低下します。健全な認知機能を維持することは、生涯現役を支え人生100年時代を生き、認知症を予防するために必須です。また、働く世代は認知機能を鍛えることで判断力、集中力、生産性を上げ、仕事のパフォーマンスが上がり、学生は学習効率のアップにつながります。脳活動を計りながらトレーニングすることで、より効果的に認知機能を鍛えることができます」

川島先生の新たな産学連携の取組みが、スマート・エイジングを未来につなげます。

くわしくはこちらを
ご覧ください

JoinT
vol.28 2019
(PDF 36.6MB)

広報誌『JoinT』のバックナンバー一覧に戻る

© TOHKnet Co., Inc.

お問合せ

トークネット光

pagetop