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トークネットのコミュニケーションマガジン

もりやま園株式会社 代表取締役
森山 聡彦氏(もりやま としひこ)

[ プロフィール ]
弘前市出身。大学卒業後、先祖代々のりんご農園を家族で経営。りんご農家が直面している高齢化や継承者問題を農家目線で研究し、業界初のICTシステムを開発。2015年に「もりやま園」を設立し事業を展開。2018年、摘果りんごを活用したシードルを発売。現在、ソーダやドライフルーツなど、さまざまな商品を展開している。

「ICT農業」と「摘果りんご」で
弘前の地域資源を守り、つなげる

りんご農家が直面する高齢化や後継者不足などの問題と、
長年りんご栽培の課題であった生産性・収益性の低さ。
ICTを活用した作業の可視化と、摘果りんごを使ったシードル製造で
これらの課題に真っ向から取組んだ「もりやま園」社長、森山聡彦さんに
弘前の基幹産業を未来へつなぐ新たな挑戦の仕方を伺いました。

りんご農家が抱える問題に向き合う

もりやま園は、弘前市で100年以上続くりんご農家。

「うちのりんご畑は9.7ヘクタールくらいあって、一般的な農家の約6倍の広さです。東京ドーム2つ分を想像してもらえると分かりやすいと思います」

森山さんは大学卒業後、家業のりんご栽培に加わりますが、家族経営を基本にしてきた従来のやり方に、危機感を持つようになりました。

「当時、父は80歳目前でしたし、繁忙期に手伝いに来てくれる近所の方たちも高齢で、農園を維持していくのはもう限界だったんです。一定の人数がいないと回らない規模の農園なのに、どんな品種の木が何本あるかも分からないという状態でした。さまざまな問題を片付けて会社組織にすることを考えたのが10年前です」

森山さんが目指したのは「6次産業化」。りんごの生産だけでなく、農産物を加工してオリジナル商品を開発し、直接販売を行います。地域の資源であるりんごを活用して利益の向上が図れ、事業展開の規模によっては新たな雇用を生み出せる可能性もあります。しかし、6次産業化に取組むためには、事業を継続するための長期的な資金繰りの見通しや、競合商品との差別化、商品を安定的に販売するチャネルが必要です。

「年中モノ(加工品)を作って出荷し、お金が入ってきて雇用もしていける。りんご作りを通して実現できる仕組みを考えたいと思いました」

りんご農園と作業をデータ化する

起業するために森山さんが取り組んだのは、広大なりんご園と農作業を数値として可視化することでした。

「経営計画を立てるための、根拠となるデータがほとんどありませんでした。そこで、植えてある木(資産)を全部データベース化して、どこに何が何本植えてあるのか識別していきました。木1本ずつに番号を振って、バーコード付のタグを取付け、さらに木ごとに作業記録を作成。一つのりんごを生産するためにかかるコストを明らかにしていったんです」

森山さんは起業後、果樹栽培に特化したクラウドアプリケーション「Ad@m(アダム)」を県内のIT会社と共同開発。これは、社員一人ひとりに1台ずつスマホを持ってもらい、作業に入る前に木に取付けたタグのバーコードを読み込んで、作業開始の打刻をし、作業が終わったらまた打刻。こうして作業データが蓄積されていきます。栽培状況を可視化し、スタッフ全員で共有することで、作業の効率化に役立ちます。

捨てる作業を活かす仕事に

りんご栽培は、9月~11月の収穫と出荷の時期を除くと、約75%は枝の剪定、果実を間引く摘果、日光が当たるように葉っぱを摘む着色管理などの作業にあてられます。

「“捨てる”ための作業にかなりの時間と労力をかけてきました。味だけでなく見た目も評価に左右されるのが日本のりんごで、農家は赤くて色ムラのない形の良いりんごを作るための手間を惜しみません。摘果作業は、りんごの実がまだ小さいうちに状態の良い実だけを残すように摘み取る作業です。だから収穫の直前に台風被害で実が落ちたりすると、りんご農家の悲惨な映像が流されるわけです」

森山さんは、自然災害によるりんご農家のかわいそうなイメージを払拭するとともに、これまで捨てるためだった作業を、モノ作りの仕事に変えることを考えました。それが摘果りんごで作る「テキカカシードル」です。

「シードルのアイディアが生まれたのが2013年で、その翌年から摘果を農産物に変えるため、試行錯誤を繰り返しました。農薬の使い方を工夫して、7月収穫を可能にするための実験を何度も行いました。2015年にテキカカシードルをビジネスアイディアコンテストで発表しました。その後、2017年にシードル工場が完成し、2018年に発売を開始しました」

テキカカシードルは2019年、シードル愛好家が選ぶ「ジャパン・シードル・アワード2019」の日本部門で大賞を受賞。飲食店向けの出荷もスタートさせました。

日本で初めて摘果りんごを使って製造されたシードルは、従来のシードルとはまったく別物。

「テキカカシードルは、成熟果汁も30%くらい入っていますが、甘すぎずさっぱりしたのど越しが特徴です。食事に合うことが好評の理由だと思います」

農園とシードルとICTで未来へ

もりやま園は6次産業化で、りんご栽培と、シードル製造販売を行うだけでなく、農業分野でクラウドシステムを活用するサービスまで手掛けます。

「りんご以外の農家でも同様の問題を抱えているのでシステム開発が必要だと思ったんです。最初に開発したアプリ『Ad@m』は、自社でしか展開できないような設計で一般向きではなかったため、東京のIT企業と共同でシステムを再度開発。2019年7月『Agrion果樹』としてサービス提供を開始しました」

ICTを活用し、データを集めることで精緻な作業管理ができ、農作業のムダをなくすことができます。森山さんは「それによって生み出される新しい付加価値、ブランド力にこそ、弘前のりんごの未来があると信じています」と語ります。

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